メーデー、メーデー、メーデー。

 「すみません。うるさくしてしまって。とにかく1度会ってみましょうよ。会う前に判断するのは時期尚早です」

 早瀬先生は、周囲の驚きなど気に留めず、何事も無かったかの様にまた話し出した。

 「……」

 藤岡さんは『はい』とも『いいえ』との言わず、少し考える仕草をした後、オレらに背を向けて布団を被った。

 「疲れさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした。また来ますね。ゆっくり休んでください」

 そう言うと、早瀬先生は藤岡さんのお母さんに会釈をし、オレと桃井さんの背中を軽く押すと、病室を出る様に促した。

 早瀬先生に誘導されるまま藤岡さんの病室を出る。

 「早瀬先生、すみませんでした。私が担当なのに何も出来なくて…。ありがとうございました」

 藤岡さんの病室を少し離れた所で早瀬先生に頭を下げる。

 「こちらこそ、外科のくせにしゃしゃり出てきてすみません。藤岡さんは自分がオペした患者さんなので、最後まで診させて頂けるとありがたいです」

 早瀬先生はオレに『頭なんか下げないでください』と言いながら、オレに両手を合わせて申し訳なさそうな顔をすると、『もう戻らないといけないので失礼しますね』と外科に戻るべく、身体を翻した。
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