ただいま冷徹上司を調・教・中!
午前十時を回ると、大半の営業マンはフロアを出ていく。

そして営業に出た人たちは、ほとんどが十八時くらいまで帰ってこない。

ということは必然的にフロア内は事務員が殆どになるわけで。

「朝礼の時の吉澤さん、千尋さん見つけてニヤニヤして気持ち悪かったです」

当然それから先は女の城になるわけだ。

「吉澤さんは千尋さんを見てニヤついてんでしょうけど、みんなは自分を見てるって忘れないでほしいですよね」

もともと和宏のことが好きではない瑠衣ちゃんは、私の一年後輩で二十七歳だ。

彼氏一筋で他の男を一切認めない彼女が、可もなく不可もなく頼りがいもない和宏のことを男としてよく思わないのは仕方のないことだろう。

かといって瑠衣ちゃんは私と同じく平嶋課長に騒ぐタイプでもない。

一度理由を聞いてみたが、『あんなハイスペック男に本気になったら魂抜かれそうなんで無理です』と言っていた。

「吉澤くんは忘れる、忘れないじゃなくて、何も考えてないのよ」

溜め息交じりにそう呟いたのは、先輩事務員の相田紗月(あいださつき)さんだ。

私の五年先輩の三十三歳で、去年の春に産休明けて戻って来てくれた。

仕事でも私生活でも頼りになるお姉さんで、私達総合6課の縁の下の力持ち的存在なのだ。

なんていったって、営業成績が毎回トップスリーに入る平嶋課長が一目置いているほどのスーパー事務員なのだから。
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