ただいま冷徹上司を調・教・中!
ほら、そんなことしちゃうから。

ますます離れがたくなっちゃうなんて。

どうかしてしまったのかもしれない。

『お茶でも飲んできいませんか』

その一言を口にしそうになって、私はグッとお腹に力を入れて飲み込んだ。

こんな言葉を口にしてしまったら、私はきっと平嶋課長の歴代彼女と何も変わらなくなってしまうだろう。

そもそも平嶋課長と大人の関係になりたいなんて思っていないはずだ。

私は梨央と和宏を見返すために仮の恋人が欲しくて、平嶋課長は恋愛不適合を治すために女心のレクチャーを私に頼んでいるだけ。

そこに恋愛感情は存在しないんだ。

「今日のデートは合格です。とっても満足させてもらいました。少しづつステップアップしましょうね」

あえて線引きをするように上から目線で物を言う。

「こちらこそありがとう。勉強になったよ」

偉そうな私にも笑顔を返してくれる平嶋課長に、『仮』以外の感情はなにも見て取れない。

「じゃ、気をつけて帰ってくださいね」

「ああ。また月曜日に」

平嶋課長はあっさりと運転席のドアに向かった。

「じゃあな」

そう言い残して走り去った車を見送りながら、自分の胸がチリッとしたのを感じてしまう。

部屋に戻ってハーバリウムをベッドの横の棚に飾ると、へらっと顔がにやけてしまった。

いかんいかん。

こんな甘々な雰囲気を出してどうする。

平嶋課長は私のことを微塵も好きではないし、私だってついこの前まで平嶋課長のことは苦手だったんだ。

仕事とプライベートのギャップが可愛くて苦手じゃなくなったとしても、私だって好きじゃない。

お互い恋人を演じているだけ。

これから暫くは続くであろう恋人ごっこに心まで囚われないように。

私は気を引き締め直して週明けを待った……。
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