ただいま冷徹上司を調・教・中!
平嶋課長は『引き返せ』というようなジェスチャーをし、車をゆっくりと私のもと来た道へと走らせていった。

はやる気持ちが足に現れたのか。

ややもつれ気味になりながらも、なんとか方向を変えて小走りに戻った。

息を切らしながら家の前まで戻ると、ちょうど平嶋課長が長い足を出して車から出てきたところだった。

「平嶋課長っ」

息を切らしながらそう叫んで駆け寄ると、平嶋課長はにっこりと微笑んでくれた。

「やっと俺の顔、見たな」

嬉しそうにそう言うものだから、ただでさえ走って上がった私の動機がさらに早くなった。

「どうして……ここにいるんですか?」

胸を抑えて息切れを堪えながら聞いてみた。

自分勝手に気まずくなって、自分本位に平嶋課長を避けてきた。

土曜日の約束だってなにも交わしていないというのに。

それでこの人はここに立っている。

私のところに……来てくれた。

「土曜日は久瀬と過ごすって決めただろ?俺も楽しみにしてるから」

「そんな……。だって今回は私が一方的に平嶋課長を避けてたから約束もしなかったのに」

最後は小声になり、それと同時に俯いてしまう。

私は平嶋課長に合わせる顔がない……。

ついさっきまで平嶋課長を見て浮かれていた心が、一気に沈んでしまったが。

「約束しなくても、会いたくなったら会いに来ていいんだろ?」

……全くこの人は。

本当に恋愛下手で女にビンタされて振られていた人と同一人物なのだろうか。

平嶋課長はこの一言で私の心を一気に浮上させてしまった。
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