ただいま冷徹上司を調・教・中!
普段は冷静沈着で取り乱したりしない平嶋課長だが、私の前では何度となく慌てふためいてくれる。

その姿がとても愛おしくて、私はもっともっと近付きたくなるんだ。

名前一つなんだけど。

姓が名に変わるだけで、どうしてこんなに特別な事のように思えるんだろう。

『久瀬』じゃなく『千尋』と。

平嶋課長からそう呼んで欲しくてたまらない。

「ほら」

「や……」

「や、じゃなくて、ち・ひ・ろ。ハイどーぞ」

「…………」

声にならない呻きを漏らした平嶋課長は、ギュッと握られたままだった私の手を解き、今度は逆に私の手を取った。

「……ち……」

そうだ。

頑張れ、課長っ。

「……ちひ……」

もどかしくて急く私の心は、もう破裂寸前の風船のように膨らんでいる。

もう少し。

お願い、ちゃんと呼んでください。

そんな願いを込めて平嶋課長を見つめると、彼は目を伏せて大きく溜め息をついた。

握られた手からは平嶋課長の緊張が伝わってくる。

でも大丈夫。

私も負けないくらい緊張してるんだから。

勢いよく開いた目からは、平嶋課長の男としての覚悟が見て取れた。

「いくぞ」

「どうぞ」

いよいよ、来る。

どんどん脈が早くなって、呼吸が苦しくなってきたとき。

「千尋」

……ああ。

とうとう平嶋課長の唇が私の名前を形取り、セクシーな低い声が私の名前を彩った。

自分から提案しておいてなんだけど。

私、いま、本気で失神しそうです。
< 144 / 246 >

この作品をシェア

pagetop