ただいま冷徹上司を調・教・中!
「うげ……」

この第一声は当然だと思う。

見たくもない顔を、不意打ちで見せられたのだから。

「千尋、大丈夫か?」

焦ったようにそう問うヤツの顔を見て、一気に具合が悪くなってきた。

何でここにお前がいるんだっ。

そう叫んでしまいそうになるほどに、この男の無神経さに腹が立った。

「ご用件は何でしょう」

ドアをしっかり握って、決して解放しないように注意しながら、目の前の主、和宏に聞くだけ聞いてみた。

「千尋が熱で仕事を休んでるって聞いたからさ。心配になって見に来たんだ。一人じゃ何もできないだろうと思って」

いかにもいい人ぶって看病を理由にここまで来たらしいが、一つだけ突っ込ませてくれ。

お前、手ぶらじゃねえか!と。

「ご心配なく。では」

自然に拒絶しドアを閉めようとすると、和宏は慌ててドアを掴み閉まるのを阻止する。

「待ってよ。千尋の顔が見たくて来たんだからさ。もう少しいいいだろ?中でお茶でも……」

「アンタがいうセリフじゃないっ。いいからもう帰ってっ」

御近所さんの手前、大声を出すわけにはいかないが、私は必死で和宏に訴える。

「もういい加減に悟って。理解して。頭使って。無理だから。本当にもう無理だからっ」

「千尋っ。とりあえずもう一回落ち着いて話そう?大丈夫だから」

どういえばこの男は納得するんだろう。

私には答えなんか見つからない。

無意識に涙がこぼれそうになったとき。

「千尋っ!」

やっぱり私の救世主は来てくれた。

「凱莉さんっ」

私はドアを大きく広げて、大好きな人の胸に飛び込んだ。
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