ただいま冷徹上司を調・教・中!
ぎゅっとしがみつくと、凱莉さんの香りと温もりが私を包んでくれる。

それだけでとても安心できた。

胸の中でそっと顔を上げると、凱莉さんは大丈夫だとでもいうように、にっこりと微笑んでくれた。

「吉澤……。またお前か」

凱莉さんは私を背中に回しながら溜め息交じりにそう言った。

「こんなところまで押しかけてくるなんて。いったいお前は何考えてるんだ?」

何も考えてないんですっ。

「ここはもう、お前の来る場所じゃないはずだろう?」

あの平嶋課長にそう凄まれ、和宏はぐっと息をのんだ。

「平嶋課長こそ、こんなところで何してるんですか?千尋は熱があるんですよ?」

「そんなこと、お前に言われなくたって知ってるよ。それに、俺がここにいるのは至極当然のことだが?」

このバカはなにを言ってるんだ?とでも言いたげな顔で、凱莉さんは和宏をあしらった。

「俺だって千尋が心配で来たんです」

「今さら吉澤の見舞いなんていらないだろう」

「見舞いもそうですけど、俺が千尋の顔を見たかったんです」

「ただの自己満足ならもう帰れ。迷惑だ」

無表情で声に何の感情もなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ凱莉さんは、さすが冷徹と言われるだけあって絶妙な冷たさがあった。

しかし和宏も言われてばかりではいられないと、凱莉さんに懸命な反撃をする。

「そうは言いますけど、千尋のことを諦めなくてもいいと言ったのは平嶋課長じゃないですか。あれは嘘だったんですかっ?」

詰め寄るようにそう言った和宏に向かって、凱莉さんは思わぬ言葉を口にした。

「あれは間違いだ。取り消す」

悪びれもせず、あまりに堂々とそう言ったので、和宏だけでなく私も固まってしまった。
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