ただいま冷徹上司を調・教・中!
こんなセリフをサラリと言ってのけるなんて。

さすが女の扱いには長けているようだ。

不覚にもキュンとしてしまったじゃないか。

何故だか悔しい気持ちになって、私は素早くバスルームに戻り、洗面台で簡単な化粧を施す。

再度バスルームを出ると、ちょうど平嶋課長がジャケットを羽織っているところだった。

会社で何度も見たことのある光景がこんなに格好よく見えるのは、やはりこの状況下のせいだろう。

「用意はできたか?」

腕時計を付けながら平嶋課長がそう聞いたので、私は慌ててポーチをカバンにしまい、「はい。お持たせしてしまってすみません」とかしこまった。

平嶋課長は何も言わず、すれ違い様に私の頭をポンポンと撫でてドアへと向かう。

その背中を見るとなんだか胸を羽でなぞられたかのような感覚で。

胸元をきゅっと握って課長の背中を追いかけた。

フロントに鍵を返しに行く際、財布を出した私を平嶋課長は手で制した。

入室時に会計は既に済ませているらしかったので、フロントを離れてからもう一度財布を出そうとカバンに手を入れると。

「どんな形であっても、こんな時に女が払おうとするな。大丈夫だから」

平嶋課長はそう言って私を諭してくれる。

やだ……。

男性からこんな扱いされたことなんて一度もない。

こういうところが女を虜にするポイントなんだろうな。

平嶋課長のプライベートなんて一ミリも知らないけれど、私はなんとなくわかった気になっていた。
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