ただいま冷徹上司を調・教・中!
ホテルを出るとそこはもう駅の真ん前で、昨日の歓迎会の会場からもそう離れてはいない。

このまま電車で帰る事もできるけれど、服やメイクの心配もあることだしタクシーで帰ろう。

「平嶋課長」

私がそう呼びかけると、課長は「なんだ?」と振り返る。

その姿に、不覚にも私の胸が大きな音を立てた。

だってそれは仕方がないことだと思う。

いつもはワックスで綺麗にセットされている髪はサラサラで、カッチリトキメているスーツだって今は着崩しているしノータイだ。

あまりにもかけ離れた日常に戸惑ってしまうのは、女としては仕方のないことじゃないだろうか。

この容姿から繰り出される『非日常の姿』というカウンターパンチに、平嶋課長を苦手とする私もジワジワと心臓にダメージをくらう。

容姿端麗というのは、時として恐ろしいものだと身をもって感じた。

「どうした?まだ具合でも悪いのか?」

平嶋課長からそう問われて、自分が思い切り課長に見とれていたということに気が付いた。

「いえ、大丈夫です。課長、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げるが、そんなことしかできないなんて嘆かわしい。

お詫びや償いをどんな形であらわしていいかもわからない私は、とにかく頭を下げるほかなかった。

「もういいから頭上げろ。戸惑ったけど、これはこれで面白い経験だったぞ」

思いもよらない言葉にパッと顔を上げると、平嶋課長は少しだけ意地悪っぽく笑ってくれていた。
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