ただいま冷徹上司を調・教・中!
ここは怒っても呆れても、そもそも見捨てられててもおかしくなかったはずなのに。

それどころか笑ってくれるなんて。

平嶋課長の懐の深さが垣間見れて、私はさらに尊敬の念を深くした。

仕事ができて、思いやりがあって、男らしい男。

そりゃ老若男女問わずにモテるはずだ。

……本当はどうなのか知らないけど。

「このご恩は仕事で返します。平嶋課長が安心して任せられるような仕事してみせますから!」

胸元で拳を作り力を込めてそう言うと、平嶋課長は横を向いて手の甲で口許を隠しながら吹き出した。

「久瀬って面白いヤツだったんだな。職場では見られない顔が見れて楽しいよ」

「それは私のセリフです」

こんなにラフな平嶋課長を見ることなんて、もう二度とないだろう。

だったらしっかりと目に焼き付けておかなくちゃ。

そんなことを思いながら、風が吹くたびにサラサラとなびく平嶋課長の黒髪を見つめていた。

「これからなにか用事でもあるか?」

唐突にそう聞かれ、私はきょとんとしながら「いえ、なにも」と答えた。

「だったら飯、付き合わないか?もうすぐ昼になる」

「昼?」

慌ててバッグの中のスマホを取りだし画面を開くと、午前11時42分だった。

「こんな時間まで課長を拘束しちゃって申し訳ないです!なのに食事までご一緒したら、課長の貴重な土曜日が台無しになっちゃいます。私はこのままタクシーで帰りますんで、課長はどうぞ優雅にランチを……」

すすっと後退りをすると、平嶋課長は呆れたように溜め息をついた。

「お前、俺をどう見てんだよ。このまま家に帰っても飯ないし、一人で食うより二人のほうが美味いだろ。久瀬だって腹減ってるだろ?昨日食べたもの、全部出したわけだしな」

「それはもう、触れないでいただきたいです……」

私があからさまに落ち込むと、平嶋課長は小さく声を上げて笑い、「行くぞ」と私を促した。

このあと私は平嶋課長とランチをしたわけだが、これがとんでもないことを引き起こすなんて、この時の私は想像もしていなかった……。
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