ただいま冷徹上司を調・教・中!
「よし。準備できた」

寝室の鏡で自分の姿を念入りにチェックして、私は口紅を抑えたティッシュをゴミ箱に捨てた。

ゴールデンウィークの中日となる5月5日土曜日。

今日は私と平嶋課長の記念すべき初デートだ。

火曜日に連絡はこまめに、週末デートは忘れずに、と念を押してから、平嶋課長は電話やメッセージを送ってくれるようになった。

もちろん急に成長するわけもなく、メッセージといえば一言日記だし、電話は本当になんの用事もない。

『電話かければ会話はなんとかなると言ってたくせに。なにも話すことがないじゃないか』

そう文句を言ってきた平嶋課長にはカチンときた。

『そこは声が聞きたかっただけだ、とか、機転を利かせられないもんですかねっ?平嶋課長の言葉は、お前とは話すことがないって言ってるのと同じですっ』

強めの口調でそう言う。

どうやら私は平嶋課長に対しては、対等に接することができるようだ。

それはやっぱり(仮)の関係だからだろうか。

『……久瀬の声が聞けてよかった。たとえそれが文句でも』

『一言余計っ!』

会社の電話でしか聞くことのなかった平嶋課長の電話独特の声が、今では私のスマホから聞こえる。

そのことが不思議で楽しくて嬉しくて。

まさか本当にデートするまでになるなんて思ってもみなくて。

胸元で切り返された、グリーンのポリエステルヒラヒラチュニックとベージュのパンツ姿に満足して、ハーフアップに編み込んだ巻き髪を揺らしながら玄関に向かった。

もうすぐここに、平嶋課長が車で迎えに来ることになっている。

完全なプライベートの一日は、いったいどんな日になるんだろう。

私は大きく深呼吸をして家を出た。
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