真夜中だけは、別の顔
翌朝目を覚ますと、やはりベッドに晴太の姿はなかった。
ああ、やはり夢を見ていたのだ……と思ったのと同時に感じた自身の身体への違和感。まるで軽い運動をしたあとのような小さな軋みと倦怠感。
「……」
それから──、身体の奥にはっきりと残る感覚だけの異物感。
「……」
伊吹は恐る恐る身につけているルームウエアの裾を自身の手で胸のあたりまでたくし上げた。
「!」
胸元に赤く散らばる小さな痣の数々にドキン、と心臓が跳ねあがった。慌てて裾を直し、大きく深呼吸をしてから、今度は首元から再びウェアの中を覗き込んだ。
「……ある。……夢、じゃ、ない?」
昨夜の行為は夢ではなく、現実ということなのだろうか。にわかに信じられない事実に、頭の中が混乱する。
「ちょっと、待って。……どういう、」
夢だと思っていたことが、夢ではなくて。
『僕は、蒼月《あつき》』
晴太だと思っていた男は、実は晴太ではなくて──?
いや、あれは晴太だった。顔も声も。けれど、あの男は自分の事を『蒼月』と名乗った。
分からない。自信の身に、一体何が起こっているのか。