真夜中だけは、別の顔
伊吹は勢いよくベッドから抜け出し、部屋を出た。
隣の部屋のドアをバン! と乱暴に開けてベッドの中の晴太を見降ろす。その大きな音に気付いた晴太が目を覚まし、モゾモゾと動きながら伊吹の方に顔を向けた。
「……ん、イブちゃ、? ……何、こんな朝っぱらから」
その口調は伊吹がよく知っている晴太のもの。
「今日バイト昼からなんだわ。もうちょい寝かして……」
むにゃむにゃと再び眠りに落ちようとするこの男は、どこからどう見ても伊吹がよく知っているいつもの晴太だ。
「──っ、」
なぜだか言いようのない悔しさが込み上げる。
なんなの?! なんなの?!
本当に頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「晴太のバカっ!! ボケ!! カス!! 死んじゃえ!!」
そう言って再び眠りに入ろうとした晴太の身体を布団の上からポカスカと殴ると、「イブちゃん痛てーって!」と伊吹の攻撃を避けながら晴太が起き上がった。
「何? どうしたんだよ? 俺、何かしたかよ?」
きょとんとした顔で訊ねる晴太。意味もなく叩き起こされて、キレられて。
こういうとき本気でキレ返したりしない晴太の優しいところが好きだ。
「あ、あれだ。イブちゃんのプリン食ったこと怒ってる? 悪かったって、今日買って返すし」
「……っ」
「ごめんなー。プリンのほかにシュークリームも付けるし。あ、イブちゃん好きなカリカリ梅もオマケにつけるし。なー?」
全くもって見当違い。
そう言ってまるで伊吹をなだめるように語り掛ける晴太の表情には少しの気まずさも、羞恥も、感じられない。
たぶん、昨夜の事など例のごとく記憶にないのだろう。