真夜中だけは、別の顔

「よくできました」

 そう言って微笑んだ蒼月が、私の手を取り、指先にキスをする。
 チュ、チュ、チュ、と五本の指、一本一本を愛おしそうに眺め、優しく唇を押し当てていく。やがて解放される指。けれど今度は唇を捕えられる。

「……ん、」

 少し強引に塞がれる唇。唇の隙間から舌が差しこまれ、伊吹はそれを受け入れる。
 蒼月の舌が伊吹の舌を追いかけ、口の中で熱く絡まり合う。この時だけは頭が真っ白になってしまう。まるで大きな渦に飲み込まれるような激しい快感に吞まれる。今、自分を抱く目の前の男が誰であろうと、そんなことは次第にどうでもよくなっていた。

「伊吹……、中を僕で満たしていい?」

 蒼月の言葉に静かに頷くと、蒼月が私の足を割って中にゆっくりと入って来る。
 堅い肉の塊が、伊吹の柔らかな内側を押し上げるようにして中に入って来たかと思うと、その中を許容量限界の体積で満たす。
 そこには一ミリの隙間さえ存在しない。伊吹の中が蒼月の形にゆっくりと馴染んでいく。

「……ふ、」

 感じる。確かに私の中にいる男の存在を。
 硬さを増すそれは、伊吹の中でますますその存在を主張する。

 蒼月に抱かれているときだけ、伊吹は自分が“女”でいることを許されている気がする。小さい頃から誰よりも背が高くて、思春期を迎えても女性らしい体型とは程遠い自分の容姿にコンプレックスを抱えていた。
 “女らしくある”ということをいつの間にか自分から遠ざけて、女らしくないキャラを演じてることで、可愛らしい女の子たちと同じ土俵に上がることから逃げていた。
 けれど、蒼月は一瞬で伊吹を女にする。

「伊吹」
「……、ん」

 蒼月に抱かれるのはこれで何度目になるだろう。
 晴太の顔をして、晴太の声をして、晴太の身体をもつこの”蒼月”という男に。

「もっと乱れて。僕にすべてを見せて」
「……あっ、……んんっ、」

 何も考えられなくなる。
 耳元で囁く蒼月の低い声と、確かに感じるその存在と温もり以外は何も──。

 

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