真夜中だけは、別の顔


   *  *  *


「ただいまー。イブちゃん、もうメシ食った?!」

 ガタガタ、パタン。ゴトン。
 晴太はいつも賑やかに音を立ててこの部屋に帰って来る。今夜はそれプラス、何やら美味しそうな匂い付きで。

「お帰り。うん、もう食べたよ」
「なんだー。バイト先でケンタ貰って来たんだけどちょい食う?」

 そう言った晴太がチキンの箱をヒョイ、と伊吹に掲げて見せた。
 共用スペースであるリビングでテレビを見ていた伊吹は、勢いよくソファから立ち上がってその箱を受け取った。

「食べる食べるー!」
「つか、メシ食ったんだろ?」
「食べたけどー」
「んでも、食うのかよ?」
「んでも、食べたいの」

 そう返事をすると晴太が嬉しそうに笑った。
 ここのところ、晴太が夜遅くまでバイトをしている為、ほとんど顔を合わせる機会がなかった。久しぶりに見る晴太は、蒼月とはやはり何もかも違う。同じ顔で、同じ声で話す、元は同じ人間なのに。

「お茶とコーラどっちがいい?」
「お茶でいいよ。晴太コーラのがいいでしょ」
「ははっ。さすがイブちゃん」

 踏み間違えないこの距離。晴太の笑顔に蒼月の笑顔を重ねながら、私はこの友達以外の何物でもない距離感にほっとしている。
 晴太が貰って来たチキンを広げ、たわいもない会話をしながらそれを食す。こうしていると何もかもが夢のように思える。晴太は晴太以外のなにものでもなくて、蒼月の影はどこにも見当たらない。
 晴太が缶コーラを開けると、中から泡が噴き出した。たぶん持ち帰ってくる途中、どこかで転がしてしまったのだろう。
 
「あはは。バカだ、晴太!」
「バカっつーな、バカって!! 口悪りぃな、イブちゃんは」

 こんなありふれた言い合いも、晴太とだからこそ。
 ああ。やっぱり好きなんだと思う。どんな言い合いしたって、他に恋人がいたって。明るくいつも太陽みたいに笑ってる晴太が。

 ──だから、守らなくちゃいけない。彼のこの笑顔と彼の幸せを。




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