真夜中だけは、別の顔
* * *
「本宮。そろそろ次……あと黒金店も行かなきゃなんねーから」
「あ。はい。今行きます」
伊吹は先を歩く先輩社員の三輪の後を慌てて追いかけた。大型ショッピングモール内の店舗も伊吹がこの店に勤めていた頃とは様変わりしている。
新人だったあれから五年。何店舗かの店長を経験し、いまや伊吹もブロックを治める立場。近隣店舗をまとめて取り仕切る立場となり、三輪マネージャーの下で勉強中の身だ。
ショッピングモールを出て、次の移動先までの交通手段であるバス停に向かうべく、三輪と並んで大通りを歩き出した。
「この辺も随分変わったよなー」
「……ですね。あの辺のお店とか、以前はなかったですもんね」
「よく、飯付き合わせたよな」
「付き合わせただなんて。私的にはタダ飯いただけてラッキーでしたよ」
「ははっ」
懐かしい街。学生時代から数年この街に住んでいた。
晴太と住んでいた部屋からは、あれから数カ月もしないうちに引っ越した。
仕事の関係で、この街から通うのには便の悪い店に異動になった事もあり、それを機に引越しをした。
突然の異動話と引越しに、晴太も驚いていたようだったが、どのみち同居が長く続くことはないとわかっていたため、気持ちの切り替えも早かった。
いい機会だと思った。
晴太からも、蒼月からも離れるには──。
蒼月は、伊吹に会う為だけに“表”に出ることを望んでいた。
すなわち、自分がいなくなれば、蒼月は現れなくなる。晴太を晴太のまま守るには、それが一番な気がした。
引っ越し先は、晴太には教えなかった。いまの時代、電話やSNS、人と繋がる手段はいくらでもある。私たちは離れてからも、時折連絡を取り合った。
やがて大学を卒業した晴太は就職を機に、昴さんと生活を始めた。相変わらず二人は仲良く暮らしているらしい。
『ねぇ、晴太。なにか、変わったことない?』
電話でそう訊ねると、晴太は決まって、
『イブちゃんこそちゃんとやってんのー? 俺いないと寂しいんじゃねぇの?』
なんていつものように冗談めかして答える。
そんなやり取りも昔のまま。けれど、そんな晴太の声に、いつだって別の男の声が重なって聞こえる。