真夜中だけは、別の顔
「イブちゃん!!」
こちらに駆け寄って来て、まさにいま伊吹の目の前で呼吸を整えているのは、幻覚でも回想でもない本物の晴太。
「晴太?! ……嘘、なんでぇ」
「そりゃこっちのセリフだよ!」
ああ。この感じ、懐かしい。
「私は、臨店。今度ブロック見て回ることになって、たまたまこっちに──、」
そう答えながらまじまじと晴太を眺める。
「ぶっ、……晴太がスーツ?! なんか社会人ぽくなっちゃってー」
「社会人だよ! そりゃ、スーツくらい着んだろ。どーだ? ますますいい男んなってて驚いたか!」
「やー。ビックリした! 七五三かと思った」
伊吹の言葉に晴太が眉を寄せる。
「ああん? やんのか、コラ」
「うっわー、ガラ悪っ!! てか、あははは……」
「ははっ、イブちゃん! 懐かしいな、マジ!」
忘れてはいない。トモダチとしての距離感。
「ビックリした! 晴太もちゃんと仕事してんだね。営業やってんだっけ?」
「おうよ、外回り。そこで昼飯食ってたら、イブちゃんいんだもん。思わず飛び出したわ。つか、元気でやってんの?」
「うん。元気元気! 晴太も昴さんと相変わらず?」
「ああ。仲良くやってる」
「幸せなんだ?」
「そりゃー、もう!」
そう言って白い歯を見せて笑った晴太の笑顔に心からほっとした。
その笑顔を見たら分かる。晴太がいま本当に幸せなのかどうか。
「イブちゃん、これからなんか予定あんの? 夜、久々に飯でも食いに行かね?」
「あー、ごめん。このあとまだ仕事あってさ。会社も戻んなきゃだし──」
「そっか。残念だな」
「また。時間作って会おう。連絡するし」
「とか言ってしてこねーだろ、イブちゃんは。もうちょっとマメな女んなれや」
「ははっ、」
晴太と電話で話したりはしても、いままで会うことをしなかったのは、晴太が幸せならばそれでいいと思っていたから。その想いは今も変わらない。
同時に、怖かったというのもある。晴太の中の蒼月が、伊吹が目の前から消えたことでどうしてるかを知るのが。