浅葱色が愛した嘘






〈桔梗………〉







誰……???





〈桔梗…まだ大丈夫だ。〉





突然、頭の中で聞こえる誰かの声。




しかし、その声は懐かしく、温かい。









『澄朔……?』





その声は桔梗の兄である澄朔の声だった。




(澄朔…私はもう心を無くす…。




愛する人の血でさえも欲しがってしまう…




私は本物の化け物になったみたいだ…)









桔梗は心の中でそう呟いた。






〈ごめんね、桔梗。


もう俺の力は桔梗の力を止めてあげられない。〉






(いいの……

これは自分の弱さが招いた事だから。


でもね、総司を殺したくはない。)







〈自分が彼に殺される事になっても?〉





(総司に殺されるなら本望だ…)





桔梗は諦めたように笑う。


妖の血がそれを許さない事ぐらいは目に見えていたから。



沖田が逃げてくれるのが一番いい方法なはずなのに、


彼は自分に背を向ける事をせず、
真っ直ぐとこちらを見ている。





〈わかった。



もう一度、彼に向かって刀を振り降ろせ。〉





(どうゆう事だ?)





〈桔梗がそうすれば、彼だって桔梗に刃を向ける。


その瞬間、一瞬だけ俺がお前の力を止めるから…


その隙ができた瞬間、彼はきっと桔梗の動きが止まったと感じけど、

振り下ろされた彼の刀は止まれない。〉





あぁ、そうか。

それなら私は望み通り総司の手にかかり死ねるんだ。





それは桔梗にとって、沖田を殺さず自分が死ねるという、小さな希望だった。





〈本当にいいんだな?〉





(あぁ。

とっくの昔から私の覚悟は決まっているよ。)






桔梗は刀を構え、一気に踏み込んだ。




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