誓約の成約要件は機密事項です
「……高林さん。お話ししたいと思っていたのは、お会いするのはこれで最後にしてくださいというお願いです。高林さんとお話ししていて、とても楽しかったんですが……高林さんとは、結婚できません。本当に、ごめんなさい」

「……それが、相澤さんの答えか。この男を選ぶのか?」

「それは……分かりません」

小さく呟くと、高林は勝ち誇ったような笑みを、涼磨に見せつけた。

「分かった。それでも、家まで送るよ。この男につきまとわれても困るだろう」

顔を上げると、涼磨はじっと千帆を見ていた。

こうして、ずっと見ていてくれたのだろうかと、ハッとするような、泣きたくなるような様々な感情が胸に渦巻いた。

「……いえ。この方とも、お話ししなくてはなりませんので」

千帆は、高林に深く頭を下げた。

「これまで、本当にありがとうございました」

「……本当に残念だよ。でも、はっきり言ってくれて、良かった。また、新年から頑張るよ」

長いお辞儀から顔を上げると、高林はもうそこにはいなかった。涼磨だけが、微動だにしなかったようにいる。

「……一体どうしたら、僕と結婚してくれる」

その呟きは、ひとりでに漏れたもののようだった。

千帆は、真正面から涼磨と向き合った。たぶん、初めてのことだ。

真っ向から向き合うのが怖くて……怖くて怖くてずっと逃げていた。

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