誓約の成約要件は機密事項です
「ごめんなさい。私……もう一つ条件を足したくなったんです」

涼磨からも、自分の気持ちからも、ずっと逃げていた。

逃げたまま、一生を過ごすなんて耐え切れるはずもないのに、それを知らずにずっと逃げていた。

「なんだと!? ……いや、そうだろうと思っていた。何かあるんだろうと」

驚きを即座に治めた涼磨は、冷静にそう問うた。

ぐるぐると悩み、苛立つ感情を周囲にぶつけてきた千帆は、ハッとする。涼磨は、こうやって感情を中に閉じ込めているのだろうか。

「その条件、僕にも教えてもらえるだろうか」

真剣な涼磨の姿勢は、結婚の話をしだしてから、もう何度も千帆が目にしてきたものだ。ずっと千帆は、それを無視してきた。

自分がかわいくて。傷つくのが怖くて。

そうして、涼磨を傷つけてきた千帆は、どう謝れば良いのだろう。涼磨だって、表に出さないだけで、ずっと傷ついていたに違いないのに。

「副社長……ごめんなさい。今まで良くしてくださって、本当にありがとうございました。私には過ぎる人で……でも、私やっぱり……やっぱり好きな人と結婚したいんです。私に愛情を返してくれる人と結婚したいんです。だから、ごめんなさい。もうお会いしたくありません。婚活だって、副社長がいるから始めたんです。好きになっちゃったから。副社長といると、私は他の人を好きになれない……!」

姉のことも従姉妹のことも、きっかけに過ぎなかった。

心の奥では、涼磨を好きになることを恐れていた。好きになっても、どうせ好きになってもらえない人だから。もし、好きになってもらえたとしても、結婚なんてできるはずもないから。

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