仮面のシンデレラ《外伝》

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春が過ぎ、新緑の季節になった。

映画の公開日を過ぎた日曜。

僕は彼女と待ち合わせて、大学から少し遠い映画館へ向かっていた。

彼女の服装がいつもより女の子っぽく見えるのは僕が浮かれているからだろうか。


(あれ…?)


隣を歩く彼女が、僕を見上げる。


「湊人くん?どうしたの?」


僕は、彼女をちらり、と見て答える。


「やっぱり、いつもとちょっと違うなあって思って。」


「!」


その時。

急に彼女が顔を隠して僕から視線を逸らした。


(え…!)


何かまずいことを言ったのかと思い、どきっ、とすると、彼女はぼそり、と呟く。


「…きょ、今日はちょっとだけお化粧してるの…。…ちょっとだけね。」


「…!」


「実は…髪の毛も巻いてみたの。…あんまり上手に出来なかったけど…」


言われてみれば、いつもストレートの黒い髪が毛先だけ少しカールがかっている。

化粧をしなくても可愛い彼女だが、今日は目元も唇もいつもより女の子っぽい。


「…やっぱり、慣れてないのわかる?変かな…?」


“今日のために”準備をして来てくれた彼女が、僕を伺いながら眉を寄せている。

“僕のために”だなんて、都合のいい勘違いをしてしまいそうだ。


「変じゃないよ。いいと思う。」


「そっか!…よかった。」


ここで、“可愛いよ”とか、“綺麗だよ”とかをさらっと言えば良かったのかもしれない。

だけど、いきなりそんな口説くようなセリフを言うなんて引かれそうで…

というマイナス思考が働いた僕は、上手く口が回らなかった。

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