今夜、お別れします。
「最近明るくなったよね」
いつだったか、遥にそんな風に言われたことがあった。
自覚がなくて、珍しく褒められたものだから返事に困ったことを覚えている。
けれど桐谷と付き合うようになって、それまでよりも仕事も、人と向き合うことも、前ほど緊張しなくなった。
丁寧に、そして仕事のスピードも上がって、気付けば上司からそれまで以上に頼られるようになって、仕事の内容も少し難しいものまで任されるようになった。
仕事への取り組み方を変えることで、視野が広がり違う部署の人達との付き合いも増えた。
仕事が楽しいと思えるようになったのは、桐谷のおかげだと思う。
桐谷とは職場以外ではたまにしか会えなかったけれど、彼も頑張っている私を応援してくれるに違いないと思って頑張った。
今は内緒にしているけれど、いつか堂々と桐谷と付き合っていると言える日が来るかもしれないと思い始めていた。
そんな風に桐谷との付き合いを続けて1年が過ぎていた。
お互いに仕事が忙しくなって、桐谷が部屋を訪れる回数が減って、少しずつ不安を感じる日が増えてきた。
その頃途中入社してきた千歌ちゃんが、桐谷に懐くのを見る機会が多くなって、彼もまた千歌ちゃんを可愛がる様子が分かって……妬いた。
嫉妬出来るくらいの彼女としての自尊心が私にはあった。
だけど未だ秘密の付き合いだったから、誰にも言えなくて、辛い思いを抱いて過ごしていた。
会う頻度が減ることで、会社で自由に話せないことで、こんなにも不安が大きくなるなんて思いもしなかった。
だから、あの日思い切って桐谷の仕事が終わるのを待ち伏せて話をしようと思った。
メールや電話で話すのは苦手だった。
相手の顔が見えない状態で大事な何かを話すことは、私の中ではあり得なかったから。