今夜、お別れします。


「えぇと……

それでは、改めて」


至近距離で期待に満ちた桐谷の目を前に、下の名前で呼ぶってだけなのに凄く緊張してきた。


「桐谷……悠……生……」


「なんでフルネーム?」


「だ、だって言い慣れないし、なんか恥ずかしい……」


「俺の名前口にするのが恥ずかしいって……コラ、」


「ち、違うー」


「……」


「ゆ、せい……」


「ん、」


名前を呼ぶだけでも必死な私を、急かしもせず名前を呼ぶたびに返事をしてくれる。


「ゆう、せい……好き」


「ははっ、なんでカタコト?」


「だって、心臓もたない。もう勘弁してよ……」


許してほしいと口にすれば、彼はきっとそうしてくれると思った。


けれど。


「いいよ。続きはベッドで聞く。きっと朝には慣れて呼べるはずだから」


優しく微笑んでいたはずの桐谷の口角が上がっている。


言葉を失う私を軽々と抱き上げ、寝室の扉を足で押し開けた。


「萌奈を抱くの久しぶりだから、覚悟して……て、なに固まってんの?」


楽しそうに笑うこんな桐谷の顔を見るのはどのくらいぶりだろう。


「悠生、私ね、今すごく幸せ」

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