シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

ところが。

乾杯から1時間が経とうとしていた。宴もたけなわ、お客様たちはだいぶ酔っている。大きな声を上げたり、拍手したり、笑ったり。会場内のBGMも喧騒でかき消されていた。

空いたグラスを整理していると、私より背の低い年配者が近寄ってきた。髪の隙間から見える地肌は汗ばんでいて、そこから漂うポマードの匂いが鼻についた。

私の背中に手が当てられ、上下に動く。嫌……そう思っていても声が出ない。


『君、美人だね。指輪してるってことは旦那いるんだろ? なのにこんな仕事して甲斐性のない旦那でかわいそうに。今夜どう? いくらほしい? ん?』
『いえ。そんなつもりは……やめ……』


男の手はねっとりと私のおしりを撫でた。ぎらついた目で私の胸元をのぞき込む。嫌……気持ち悪い。突き飛ばしてしまいたい。でも怖くて、私は目をつむって必死に我慢した。

誰か……誰か助けて。

そう願っていると、ふと男の手は止まった。
私の前に誰かが立つ気配がした。
ゆっくりと目を開ける。そこにいたのは悠季くんだった。


『川村社長、その手を離していただけませんか? 今夜の彼女は僕が予約済みなんですが』
『これはこれはサトーホテルズの悠季くん。いやいや、彼女とちょっと世間話をしていただけだよ』
『なら結構ですが』


その物腰の柔らかい彼の言葉とは裏腹に、悠季くんの目は鋭く光っていた。
その威圧感に男は舌打ちをして離れていく。
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