シンデレラのドレスに祈りを、願いを。
「早百合さん、上手」
「悠季くんのリードがうまいから」
「そんなことない。ほら背を反らせて。そう。早百合さん、きれい」
123、123、123……。あのとき流れていたワルツのメロディーが聞こえてくるよう。私をシンデレラにしてくれた舞踏会。
あの楽しかった幸せな時間が蘇る。
目の前の悠季くんの笑顔は変わらない。背景だけがくるくると色を変える。
懐かしい……懐かしい。
でも舞踏会はいつまでも続かない。いつかは終わる。
魔法もいつかは解ける。
そしたら私は悠季くんのそばにはいられない。
悠季くんはぴたりと足を止めた。くるくる回ってた景色も止まる。
静まり返る室内。
さよなら、だ。私はうつむいた。
「早百合さん、結婚しよう。いや、結婚するよ?」
「えっ? い、今……なんて……?」
悠季くんは私を抱き寄せた。背中に手を回し、ぎゅっと力強く抱き留めた。私の目の前にはネクタイの結び目。鼻からは煙草の苦い香り。耳にかかる悠季くんの吐息。