バッドテイストーヴァンパイアの誤算ー



足をとられながらなんとかここまでやって来た私と違って、彼がその長い足で優雅にこちらへ向かってくる

羽織ったロングコートは雪の表面を撫でながら足を動かす度に揺れる

その度にシャツの胸ポケットに納められている眼鏡が見え隠れする

彼の中のあの人みたいだと思った

いつもは彼の中にいて見えないのに、時々こうやってチラチラ姿を現す

これを返してもらえばもう彼はあの人と私から解放されるのだろうか

(そんな簡単なもの?)

いや、きっと違う、何かもっと別のことをしなきゃいけない気がする

でも、それが何かは分からない

ただ今の私にできることは彼を手放すことだけだ

彼が私の前に立つ

彼とは目を合わせずに胸ポケットを見つめながら言う

「ありがとうございます、眼鏡持ってきてくれたんですね」

彼に直接触れてしまわないようにそっと、コートをずらして眼鏡を取る

そのまま手を引っ込めようとしたら、彼がぱしっと眼鏡ごと私の手をその大きな手で掴む

途端に心臓が跳ねてどくどく音がうるさくなる

(こうなるから触らないようにしたのに…)

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