《短編》ガラクタ。
刹那、多分ひどく驚いた、と言う表現以外にはなかっただろう。


体を離した彼は煙草を取ろうとしたのだろう、あたしに背中を向けたのだけれど、そこには鳥のようなものの刺青が入っていたのだ。



「…何、それ…」


いや、そんな陳腐な表現で収まるような代物ではなく、背中の右半分だけを埋め尽くすようなそれは、

飛び立とうとしている様子で上空を仰ぎ、お尻の方にまで伸びる長い尻尾のようなものが絡まっている。


足には“慈”の文字の入った玉のようなものを掴んでいて、一体何なのかもわからずにあたしは、ただ目を見張ることしか出来なかったのだけれど。



「…鳥、ってもしかして…」


「いや、正確には鳳凰。」


「…ほう、おう…?」


「中国の伝説の鳥。
一万円札だったり、金閣寺のテッペンだったりに居るヤツ、って言えばわかる?」


そんな表現じゃなくて、何て言えば良いか、これはもう芸術だ。


どっちかって言えば手塚治虫の漫画に出てくる火の鳥といった感じで、息を呑んでしまい、気付けばあたしはその場所に、指の先を這わしていた。


確かに今まで、トライバルなどのタトゥーを入れている人とヤったことがないわけじゃないけど、でも、こんな本格的な刺青なんか、初めて見た。



「格好良いっつったっしょ?」


「…うん、すごい…」


怖いとかそんなんじゃなくて、ただ綺麗だと思った。


こんな鳥を背中に飼っていただなんて、と滑らすように指先でそれをなぞれば、煙草を咥えた彼は顔だけで振り返り、フッと口元を緩めるいつもの顔。



「この絵に惚れちゃってさ。
コピーで良いからくれ、って言ったけど、無理だったから入れたんだ。」


「…そんな理由?」


「けど、すげぇだろ?」


「まぁ、確かに。」


背中半分全てを支配している鳳凰には迫力すら感じ、飛び立とうとする様はエネルギーに満ちているようにも見受けられるのだ。


こんなにも心が動いたのは、一体いつ以来だっただろう。


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