《短編》ガラクタ。
風邪だからなのか、アラタの顔に幾分元気がないようにも見受けられ、煙草を咥えたきり彼は、視線を落としたまま。


ただ、揺れるように白灰色が立ち昇り、あたしは思わず眉を寄せてしまうんだけど。



「もう寝なよ。
あたし、お風呂入ってくるから。」


「ん。」


そんな短い返事を聞き、彼の咥えていた煙草を口から抜き取りあたしは、それを持ってアラタに背を向けた。


吸い込み吐き出したアラタの煙草は嫌にきつくて、おまけにメンソールじゃないから苦くて仕方がないのだけれど。


さっさとそれを消し、まるで自分の家のように勝手知ったる感じでメイク落としだけをバッグから取り出しあたしは、お風呂場へと向かった。






シャワーを浴び、キッチリ髪の毛まで乾かして寝室へと戻ってみれば、電気のひとつも灯されていない部屋の中で、流れ続けるDVDを見つめながら彼は、缶ビール片手。


コイツは人に看病を頼んでおいて、本当に風邪を治す気があるのだろうかと、地味に腹が立って眉を寄せてしまう。



「…誰かと思った。」


「あたし以外、誰が居んのよ?」


「いや、化粧してないと別人だな。」


“さすがはギャル”と付け加え、酔っ払っているのか口元を緩めたアラタはまた、ビールをあおる。


確かに、あたし自身が見てもスッピンなんて別人だけど、でも、女にそれを突っ込むなんて、嫌な男だ。



「見るな、馬鹿。」


小さく睨んで奪うように手に持つそれを取り上げてみれば、不貞腐れたと言った様子の彼は、代わりにあたしを引き寄せた。


思わずビールが零れそうで反抗することも出来ないで居ると、熱っぽい体に抱き締められ、今度はどうしたものかと思ってしまう。


酔っ払いの相手は、ぶっちゃけ苦手。


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