《短編》ガラクタ。
仕方なく飲みかけのビールをサイドテーブルへと置いてみれば、あたしを抱き締めたそのままの状態で、彼によって押し倒された。


酔ってるからか熱があるからか、アラタの心臓の鼓動はいつもより少しだけ早く、小さく乱れた呼吸のままに彼は、あたしの胸へと顔をうずめてしまって。


こんな風にされれば、まるで小さな子供のようで、怒るに怒れないのだけれど。



「…ホントに寝たの?」


少しすると胸の中からは安心したかのような寝息が聞こえ始め、本当に困ったものだと思ってしまう。


多分、アラタの寝顔をまじまじと見たのなんて初めてだったのだろうけど、整った顔立ちも、薄付きの唇も、もちろん左耳のピアスも、全てが淡い光に照らされていた。


細身というよりは不健康な感じにも見え、頬をつんつんとつついてみれば、吐息混じりに眉を寄せる顔に、思わず笑ってしまう。


だけどもすぐに、一瞬鳳凰のことすら忘れていた自分に気がついて、無理やりに上体だけを起き上がらせ、サイドテーブルに置いたままだった飲みかけのビールに手を掛けた。


鳳凰を拝むためだけにお粥を作ったはずだったのに、何であたしは一緒に眠ることになっているのだろう。


こんなヤツなんか放っとけば良いはずだし、ましてやシゲちゃんですら、あたしのスッピンなんか見たことはないだろうし。



「…アンタ、マジでムカつくね。」


呟くように向けてみた台詞に、当たり前だけど返事はない。


きっとあたしも風邪が移ったのだろうと、そう無理やりに言い聞かせながらほぼ一気飲みのようにビールをあおり、そしてアラタを抱き締めるようにして眠ってやった。


DVDはいつの間にかエンドロールが流れていて、すぐにそれは、真っ青な画面へと切り替わってしまう。


部屋はテレビからの青に支配され、まるで海の中のように思えてくるのだから、本当にあたしは重症なのかもしれない。


こんな狂った女、いっそ誰か殺してくれないだろうか。


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