《短編》ガラクタ。
目を瞑っていてもまぶたの裏に朝日らしきものを捕らえてしまい、眉を寄せるようにして意識を手繰り寄せた。


体が上手く動かなくて、何か人の声も聞こえるっぽいし、眠さが勝るけど、でも、眩しさに負けた感じ。



「…起きました?」


人間、本当に驚くと声も出ないらしい。


目を開けてみれば、何故か知らない顔があたしを覗き込んでいて、その瞬間に体が固まってしまったようで、

視線だけを動かして状況を確認しようと努めると、視界の端にはもぞもぞと動く茶色い頭。


それがアラタもので、未だあたしを抱き締めた状態で眠っているのは理解したけど、でも、コイツは誰だ。



「おはようございます。」


「…おは、よう。」


と、挨拶交わしてる場合じゃないんだろうけど。


声に気付いたのか隣の茶髪も体を起こし、“アラタさん!”とあたしを覗き込んでいた顔がそちらに向けられ、彼は寝惚けたような顔して首だけを傾けた。



「…コージ?」


「昨日電話したとき、風邪って言ってたから心配したんすよ。
チャイム押しても反応なかったし、玄関開いてたから勝手に上がらせてもらいました。」


「…あぁ、ん…」


多分、コージと呼ばれた男の言葉ですらあまり頭に入っていないと言った様子で、アラタは欠伸を混じらせながら体を起こした。


起こして、そしてやっとあたしと目が合い、多分全ての状況を理解したのだろう。



「コージ、飯作って。
マイの分もな。」


「ラジャっす。」


ニカッて感じで笑ったコージくんは、そんな言葉と共にさっさとリビングへときびすを返してしまう。


記憶の糸を辿ってみても、昨日の男達の中には居なかった顔で、コイツはどんだけ知り合いが居るんだよ、と思うんだけど。


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