《短編》ガラクタ。
数分後、見慣れた四駆が路肩に停車し、それに乗り込んだ瞬間、彼が口を開くより先にあたしは、その体を引き寄せるようにして唇を奪った。


並木通りは未だ人も多く、いくら車の中とは言え、キスをしている姿なんか丸見えなのだろうが、そんなの構ってられなかったのだ。


どうしても、コイツが欲しくて堪らない。



「おい、落ち着けって。」


「抱いてよ、今すぐに!」


「…お前、変だぞ?」


「わかってるわよ、そんなの!」


無理やりにあたしのキスから逃れ、アラタは眉を寄せるのだが、どうしようもない感情全てが爆発してしまいそうで怖かった。


“何かあったのか?”と、そう問うてくる瞳に痺れを切らし、彼のズボンのベルトへと手を掛けてみれば、アラタは困ったように肩をすくめるのみ。



「30秒だけ我慢しろ。」


そんな言葉と共に車は急発進し、あたしは視線を落とすようにして顔を伏せた。


それからすぐに、あたし達を乗せたそれは裏通りにある公園の駐車場に停められ、先ほどの場所からすぐとは思えないほどに、静かすぎる帳が下りている。


もしかしたら彼は、ヤればあたしの気が収まるとわかっていたのだろう、それ以上何かを問うてくるわけでもなく、シフトをパーキングに入れた瞬間、あたしを引き寄せた。


引き寄せて、そして貪るように舌を絡め、もうどちらが獣なのかもわからない。


あたしの座る助手席のシートが倒され、いつもとはまるで違うほどに余裕のない顔したアラタは、前戯もそこそこに、あたしの中へと深く自身を押し込めた。


ただ、涙が出そうなほどに気持ち良くて、甘く溶けるような声だけが狭い車内を覆う。


求め焦がれていた鳳凰があたしの中に入っているこの甘美な現実に酔いしれながら、アラタの腕の中で何度果てたのかももうわからない。


多分あたし達は、こんな行為でしか離れていた時間を埋められないんだ。


それでも、無駄な会話なんかよりもずっと意味があって、そして生きていることを感じさせてくれた。

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