《短編》ガラクタ。
多分、考えるより早くに言葉は口をついていたと思う。


寒さなんかすっかり忘れてて、それでもゾクゾクと血がたぎる感覚に支配され、あたしは別の意味で身震いを覚えたのだから。


アラタにこんな感覚に陥らされたのは、鳳凰を見せられた時以来、二度目。



「これ、素直にどう思う?」


「わかんないけど、でも、吸い込まれそう。」


「そうだろ?
タイトルは“マイ”で、お前な感じを表した。」


「…あたし?」


そう問うてみたのに、彼は得意げに口元を上げるのみ。


どこら辺があたしなのかもわかんなかったけど、でも、凄いとかそんな陳腐な言葉しか思い浮かばなくて、もっと勉強しとけば良かったと思った。



「…もしかして、だから携帯の電源切ってたの?」


「そう。
邪魔されたくねぇって言うか、自分と向き合いたい派だから。」


アラタは熱中すると、寝食も忘れるのだと、コージくんが言っていた。


まるでアラタ自身の全身全霊を込めて描かれてる感じで、あたしの名前の付けられたそれに、愛しささえも覚えるのだ。



「まだアイツらには言ってねぇけどさ。
今度俺、個展開くんだよ。」


「…個展?
それって凄いんじゃない?
てか、アンタってもしかして有名な絵描き?」


「そんなんじゃねぇって。」


いや、多分そうだと思う。


絵を描くだけで普通に暮らせるとは思えないし、芸術家なんて狭き門なんだから。


てか、この絵で評価されないなら、あたしは世間のみんなを皆殺しにしてやりたいくらいだ。


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