《短編》ガラクタ。
多分、アラタの他の作品をマトモに見たのなんて、これが初めてだったんじゃなかろうか。


普通の風景画や何かも描いていて、さすがにそれには驚いたけど、でも、つまんない絵だよ、と彼は言う。


確かに美しくも綺麗な絵ではあったけど、あたしはそれ以上のものなんて感じることは出来なくて、やはりぶっ飛んだあたしの名前の絵ばかりを見つめていた。



「やっぱ、この絵が一番っすよね。」


そう、横からみんなは同じことを口にしていて、あたしは思わず苦笑いを浮かべてしまうのだけれど。


とにかく何度見ても、これに視姦されている気がして、鳥肌が立つほどにゾクゾクとしてしまう。


もしもこの世に、この絵を見て同じことを感じた人間が居るかもしれないなんてことを考えると、

この世の全ての人間の目を潰したくなって、そんな衝動に駆られること自体、狂っている証拠なのだろうけど。



「あたし、やっぱ先に帰るね。」


多分自分自身、悔しさもあったのだろう、適当に用事があると言ってあたしは、ひとり個展の会場を後にした。


アラタが認められてることは素直に嬉しいけど、でも、だからこそどこか遠く感じてしまい、そんな自分自身をひどく持て余してしまう。


とにかく、その場には居られなかったのだ。


嫉妬と羨望が入り混じる、とてつもなく醜い感情があたしの中で渦をなす。



「マイ!」


刹那、背中越しにあたしを呼び止める声が響き、振り返るようにして足を止めた。


すぐに少し息を切らした彼が近付いてきて、思わずあたしは“アラタ”と呟いてしまうのだけれど。



「…お前、情けねぇ声だな。」


「ごめん。」


「んだよ、らしくねぇな。
とりあえず、俺んちに居ろよ。」


“な?”と言って彼は、銀色に光るものをあたしの手の平に握らせてくれた。


視線を落とせばそれは家の鍵で、アラタの部屋のだとは思うんだけど。



「わかった。」


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