Perverse
私の落ちていた気持ちが一気に浮上していく。



あんな事があったというのに、本当の私はこうも簡単に出来ていたのかと自分でも驚くほど。



「三崎?」



呼ばれると応える鼓動は、もう末期だ。



「おはよう柴垣くん」



もっと丁寧にメイクをしておけば良かったなんて後悔しつつ、少し緊張しながら横に並んで歩き出した。



「初めてだな、朝一緒になるの」



「そうだね。私はいつも10分前には出てるもの」



「朝の10分ってデカいよな。なんかあった?」



何気なく交わされる会話の中に、ピンポイントの質問が飛び出て体がすうっと冷たくなった。



「何もないよ。昨日なかなか寝付けなくて、寝坊しちゃった」



竹下さんの話なんてできるはずもなく、ありきたりの答えを笑顔で返す。



少しづつ会話も自然にできるようになり、駅の改札口を出てホームで並んだ時には2人の体の距離も大分縮まっていたようだ。



乗り込んだ電車内は混雑していて、柴垣くんは私を窓際に詰めると腕を張って庇ってくれた。



「毎朝これだけは勘弁して欲しいぜ。苦しくねえ?」



そう言って私を見下ろした柴垣くんがあまりにも近くて、胸が高鳴るどころが全身が泡立つような感覚を覚えた。



この胸に抱きつきたくて縋りたくて。



でもできないもどかしさにチリチリとした痛みを感じながら、



「ありがとう」



そう言って私は柴垣くんの腕に大人しく囲われた。
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