Perverse
このまま時間が止まればいいのに。



どんなにそう願っても、時間は全てに平等だ。



最寄り駅についてしまえば、電車を降りなければならない。



柴垣くんの体温が離れていくのが名残惜しくて、思わず溜め息を漏らしそうになったとき。



私よりも先に周りの溜め息が聞こえてきて、初めて自分たちがどれほど恥ずかしい存在だったかに気が付いた。



柴垣くんしか見えていなくて。



柴垣くんだってきっと私しか見ていなくて。



周りにたくさんの人がいるということを忘れてしまっていた。



柴垣くんに手を引かれた私は、なるべく顔を隠したくて。



これでもかというほど俯いて下車した。



もうこの時間の電車には恥ずかしくて乗れそうにない。



明日からはいつもの時間に乗らなくては。



程よく吹いた風に頬の火照りを冷ましてもらいながら、私と柴垣くんは改札へと向かう。




いつまでも手を繋いでいるわけにはいかない。



そう思ってそっと手を引くけれど、私の手を包む柴垣くんの手は緩まない。



「柴垣くん」



呼びかけると彼は私の意図など全く悟ってもいないような表情で振り向き、「なに?」と聞き返した。
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