私の遠回り~会えなかった時間~

そして何も考えずにうなずく。

頭の中の焦点が合っていないような感覚。

「じゃあ、シャンプーするよ。」

彬さんは私が座っている椅子を半回転させる。

私は改装前と場所が変わらないシャンプー台に移ると、彬さんは顔にタオルを乗せた。

ああ、気持ちが良い…。

加代さんとは違う感覚。

何かを放っているような温もりを感じる加代さんの手。

髪にその手から何かを与えてくれるような加代さんのシャンプーの仕方。

それに対して彬さんのその長くて細い指は馴染んでいく感じ。

髪の中の良さを引き出してくれるような彬さんのシャンプーの仕方。

彬さんは私が思うよりもっと繊細な人かもしれない。

ふぅと意識が遠のきそうになる。

< 20 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop