私の遠回り~会えなかった時間~
「知紗…。俺の事、覚えていない?」
私は目を見開いた。
以前この目線で彬さんを見上げた場面が頭をよぎる。
でも今とは違うその見上げた先にある表情…。
彬さんに返事をしようと、口を動かそうとした瞬間…。
時が止まったように感じた。
彬さんの唇が私の唇に重なっていた。
私は突然の事に、抵抗すらできない。
一体…、何が起こっているの?
私の頭は考える事を拒否している。
でもそのキスは優しくて…、そして甘くて…。
私は彬さんに飲み込まれていくような錯覚に陥った。
どれくらいの時間が経ったんだろう。
それはきっとわずかな時間。