溺愛ラブ・マリッジ~冷徹上司が豹変しました~
「す、すみません!」

反射的にあたまを下げたが、石川さんの怒りはおさまらない。
私のあたまの上でがんがん怒鳴っているが、なにひとつ聞き取れなかった。
ただ怖くて怖くて、じわじわと浮いてくる涙に目をきつく閉じ、嵐が通り過ぎるのを待つ。

……うん。
嵐は通り過ぎるのを待つしかない。

なにか言ったって絶対に聞いてはもらえないし、それにもっと怒らせるだけだから。

それが二十八年生きてきて私が身につけたもの。

「久保にまかせっきりにして、確認しなかった君にも責任があるだろう?」

成り行きを見守っていた課内に君嶋課長のその銀縁眼鏡と同じ冷たい声が響きわたると、その場が瞬時に凍り付いた。

「でも、久保がちゃんとしなかったのが悪いわけですし」

石川さんのワントーン低くなった声は、絞り出すようでしかも震えていた。

「はっ」
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