溺愛ラブ・マリッジ~冷徹上司が豹変しました~
受け取ると君嶋課長は眼鏡の奥からちらりとだけ石川さんを一瞥して、その長い足で駆けるように部屋を出ていった。

君嶋課長がいなくなると、とりあえずいまやってる仕事を片づけることにした。
きっといまからこの件でばたばたするだろうし、そのせいでほかの仕事にさらにミスしては目も当てられない。

「くぼぅ」

すぐ傍でした、おなかの底に響く声にびくりと身体が震える。
おそるおそる顔をあげると、石川さんが左手を机につき、私の顔をのぞき込んできた。

「おまえのせいで君嶋に怒られたじゃないかぁ」

にたりと笑う石川さんに逃げろと本能が警告する。
けれど私の身体はメドゥーサに睨まれて石になってしまったみたいに動かない。

「なぁ、わかるかぁ?
年下の君嶋に莫迦にされるのが、どんなに惨めか」

石川さんが君嶋課長をよく思ってないのは知っている。
君嶋課長は三十二歳なのに対し、石川さんは四十五歳で主任止まり。
そりゃ、コンプレックスにもなるだろう。
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