溺愛ラブ・マリッジ~冷徹上司が豹変しました~
ダン!

机を叩く手に椅子の上で小さく飛び上がった。
うっすらと浮いてきた涙で視界が滲んで見える。

「……パワハラで訴えられたいのか」

私の背後から聞こえてきた声でその場が一瞬にして静かになった。
石川さんはのろのろと視線をあげると、ひぃっと小さく悲鳴をあげて私の顔からぱっと手を離す。

「な、なんでもないです」

きょときょとと視線を泳がせると、石川さんはその場に棒立ちになった。
君嶋課長はかまわずに、強引に椅子を回して私を自分の方に向かせる。

「久保。
仕入部の奴らは話にならない。
誰かの大きな態度のせいで不評を買っているから仕方ないといえば仕方ないが」

ちらっとだけ君嶋課長が眼鏡の奥から冷たい視線を送ると、ひぃっとまた石川さんが短く悲鳴をあげた。
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