突然現れた御曹司は婚約者
「おはようございますっ!」
出社時間ギリギリに更衣室に駆け込み、急いで着替えて朝礼に参加する。
「ふぅ。間に合った」
息を整える私の隣で寧々が私の顔を覗き込んできた。
「珍しいわね。栞がギリギリなんて」
「寝坊しちゃって」
誤魔化してみるけど、寧々は疑いの目を向けてくる。
いつも以上にメイクが手抜きだからだろうか。
それとも朝、急いでお風呂に入り直したせいで
髪が少しだけ濡れていることに気付いている?
どちらにしてもこの鋭さを仕事に活かせばいいのに、と思わずにいられない。
どれだけ追求されても蓮が朝まで離してくれなかったなんてことは口が裂けても言えないんだから。
やたらと私の様子を気にする寧々から逃れるために気だるい体を鼓舞して受付の席に着き、いつも通り仕事の準備をする。
その1時間後。
お客様の対応中にも関わらず、隣に座る寧々が肩を叩いてきた。
何事かと目を向けるとそこには昨日とは違うスーツに身を包んだ蓮が入り口にいて、極上の笑みを口元に浮かべていた。
「あの顔。幸せ感がダダ漏れなんだけど、ふたり昨日、何かあったでしょ」
鋭過ぎる寧々の言葉にゴホゴホっと咽せてしまう。
でも目の前のお客様の方が大事だ。
小さく深呼吸してからお客様に向き直り、対応を終える。
するとお客様と入れ違いに蓮が受付の前にやって来て、鍵を差し出してきた。
「ちゃんと施錠してきたからな」
「何言ってるんですかっ!ポストに入れてきてくださいって言ったじゃないですかっ!」
確信犯的に微笑む蓮に小声で抗議するも効果はない。
「照れるのは俺の腕に抱かれたときだけにしろ」
恐ろしく場にそぐわない言葉を口にした。
一応小声で言ってくれたから周りに聞こえてはいないと思うけど、そもそも出入りは裏口からじゃなかったのか。
「東堂様がいらしてたなら連絡して来なさいよっ!」
理事長に怒られてしまったじゃないか。
みんな、蓮のことを知らない人ばかりなのに。
理不尽に怒られて憮然とする。
でもそこは蓮が卒なくフォローしてくれた。
「理事長。正面から入って来たわたしの責任なので怒らないでください」
「いや、だがなぜ今日に限って正面からお入りになったんですか?」
理事長の質問に蓮はチラッと私を見てから意味深な笑みを口元に浮かべながら答えた。
「恋人の制服姿が見たかったので」
「え?こ、恋人?」
私と蓮を交互に見ては混乱する理事長の背を蓮は押し、上階にある個室へと消えていった…けど…