突然現れた御曹司は婚約者
「悩むな。それよりこうして一緒にいられる時間を楽しもう。俺は栞のことで頭がいっぱいなんだから」
そう言うと蓮は私の体を軽々と抱え上げてお風呂場へと向かった。
「え?!ちょっと待って!お風呂は別々に入りましょうよ」
「ダメ。いつも同じことしてたら飽きるだろ?来るな、なんて言わせないために、今日は一緒にお風呂に入ろう」
どんな理屈なの、と言い返したかったのに、蓮に口元を塞がれてしまい、言えなかった。
「俺は栞に飽きられたくないんだよ。ずっと好きでいてもらいたいんだ」
ずっと好きでいてもらいたい、なんて。
そんなの私も同じだ。
私のことをずっと好きでいてもらいたい。
「でも…」
檜の浴槽の中で、後ろから蓮に抱き締められているのをいいことに、顔が見えないうちに同じ話題に触れる。
「毎回来てもらうのはすごく嬉しいんですけど、そのうちめんどくさくなって来なくなっちゃうんじゃないかって不安なんです。ほら、蓮さん、モテるでしょう?」
「なに言ってるんだよ。もしかして誰かになにか吹き込まれたか?俺は栞以外目に入らないよ」
今はそうかもしれないけど未来は誰にも予測出来ない。
俯く私に蓮はいつもより少し低い声で言った。
「不安なら今すぐにでも栞を嫁として迎えに来るよ。親もそれを望んでいるし。でも栞はこの地を離れて俺のところに来る覚悟が出来てないだろ?」
蓮は私のことを私よりよく分かっているらしい。
蓮の言うように私はこの地を離れる覚悟は出来ていない。
付き合い出して間もない蓮より、圧倒的に長い時間をともに過ごした祖父母。
そのふたりとの思い出が詰まった場所から離れるにはもう少し時間が欲しいから。
「でも飽きそうだったら早めに言ってくださいね。ほかに気になるひとが出来たときも。別れることになるとしたら、それにも時間が欲しいので」
「おい。言っていいことと悪いことがあるぞ」
少し厳しい声が浴槽に響いた。