獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
ヴァンは、町向こうにそびえるロイセン城に視線を向ける。


「あの王太子は目つきが悪いだけでなく、性格も悪く、口も悪い。千歩譲って、顔がいいのは認めるが」


「……ヴァン、言い過ぎよ」


「でも、これだけは言い切れます。あの王太子には、万人にはない唯一無二の魅力がある。だから、あなたの目に狂いはないと」


ブラウンの瞳を細めて、ヴァンはアメリが幼い頃から馴れ親しんだ優しい笑みを浮かべた。


それから、天を仰ぐ。


薄水色の大空には、霞のような雲が揺蕩っていた。






「戦争を目前にして、この国は変わりつつある。あなたを救い出す時のカイル殿下の姿に心打たれ、騎士達の間では日増しに支持が広がっている。王太子の真の姿を知った国民も、にわかに活気づいている。気づいていましたか? バラバラだったこの国が、あろうことかあの悪獅子を中心に一つになろうとしていることに」


ヴァンの声を聞きながら、アメリはシルビエ大聖堂に新しく取り付けられたステンドグラスを思い浮かべていた。


金糸雀色の光に包まれた獅子の姿に、現状からはかけ離れたこの国の明るい未来を、自然と想像したことを思い出す。



「俺も、ハイデル公国には深い恨みがあります。もう、何もかもを諦めるしかないと思っていた。けれども……」


ヴァンの眼差しが、優しい兄から精悍な騎士へと変わった。


「あの王太子に、懸けてみたいと思い始めているのです。俺だけじゃない。きっと、多くの人間がそう考え始めているのではないでしょうか?」
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