獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する

我を忘れてアメリを求めた時の彼女の泣き顔が、カイルの頭から離れない。


白い裸体を暴かれた彼女は、震えていた。


潤んだ彼女の目に滲んでいたのは、男に対する恐怖心に思えた。彼女の母親は、ハイデル公国の男たちに凌辱されて死んだと言っていたからだ。


苦境にもめげず強く明るく生きる彼女がふとした時に見せる、切なげな表情。それらすべては、母を失った時のトラウマによるものなのだろう。







アメリへの想いは日に日に募り、自分だけのものにしたいという欲望はカイルの内からマグマのように湧き上がる。


一方で彼女を大事にしたい一心から接し方が分からなくなり、カイルはアメリと距離を置くようになった。






彼女の心に深い傷を作った、ハイデル公国が憎い。


そしてこの国の王太子でありながら、何の指揮権も持たない無力な自分が、死ぬほど憎い。






夜のシルビエ大聖堂で聞いた、アメリの声を思い出す。


――『たとえこの世の全てがあなたを拒絶しようと忌み嫌おうと、私は信じております』


ひたむきにカイルを見上げるエメラルドグリーンの瞳には、何の迷いもなかった。


――『あなたはこの国をお救いになる、唯一無二の希望の光です』
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