獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
決意を固めたカイルは、王の執務室に向かった。
戦況の悪化に伴い、元老院は頻繁に堂々巡りの会議を繰り返している。
「カイル殿下……」
凄んだ眼差しで執務室の前に立つカイルの入室を、近衛兵たちは阻止しようとはしなかった。
その代わり頭を垂れ、まるでカイルに執務室に入れと言わんばかりに道を開ける。
意表を突かれながらも、カイルは勢いよく両開きの扉をバンっと押し広げた。
長テーブルを取り囲む元老院の幹部たちが、まるで虫けらでも見るような視線をカイルに注ぐ。
「……またお前か」
上座に座っていた王が、忌々しげに舌打ちをした。
カイルは怯むことなく、しきたりに倣って王に一礼をする。
「国王陛下、もう時間がありません。どうか、私にクロスフィールドへの出陣をお許しください」
「まだ言っておるのか」
「気がおかしいんじゃないのか?」
「軍事指揮をとったこともないくせに、何を偉そうに」
幹部たちの心無い言葉も、カイルは黙って受け流す。
国王は、大きくため息を吐いた。そして、「馬鹿馬鹿しい」とカイルの申し出を一蹴する。
「クロスフィールドを叩いたところで、ハイデル公国との国境越えは免れないんだぞ? 内部が弱ったところで、公国内に攻め入ることすら出来なければ何の意味もなさない。愚かな息子よ、そんなことも分からぬのか?」
カイルは、スッと頭を上げた。
そして、父親である国王を冷えた瞳で見下ろす。
「お忘れですか? 国境は、一つではありません」