獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する

決意を固めたカイルは、王の執務室に向かった。


戦況の悪化に伴い、元老院は頻繁に堂々巡りの会議を繰り返している。


「カイル殿下……」


凄んだ眼差しで執務室の前に立つカイルの入室を、近衛兵たちは阻止しようとはしなかった。


その代わり頭を垂れ、まるでカイルに執務室に入れと言わんばかりに道を開ける。


意表を突かれながらも、カイルは勢いよく両開きの扉をバンっと押し広げた。






長テーブルを取り囲む元老院の幹部たちが、まるで虫けらでも見るような視線をカイルに注ぐ。


「……またお前か」


上座に座っていた王が、忌々しげに舌打ちをした。


カイルは怯むことなく、しきたりに倣って王に一礼をする。


「国王陛下、もう時間がありません。どうか、私にクロスフィールドへの出陣をお許しください」





「まだ言っておるのか」
「気がおかしいんじゃないのか?」
「軍事指揮をとったこともないくせに、何を偉そうに」


幹部たちの心無い言葉も、カイルは黙って受け流す。


国王は、大きくため息を吐いた。そして、「馬鹿馬鹿しい」とカイルの申し出を一蹴する。


「クロスフィールドを叩いたところで、ハイデル公国との国境越えは免れないんだぞ? 内部が弱ったところで、公国内に攻め入ることすら出来なければ何の意味もなさない。愚かな息子よ、そんなことも分からぬのか?」


カイルは、スッと頭を上げた。


そして、父親である国王を冷えた瞳で見下ろす。


「お忘れですか? 国境は、一つではありません」


< 140 / 197 >

この作品をシェア

pagetop