獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
レイモンド司祭の叫びに誘われるように、騎士達が部屋の外へと流れていく。


カイルも、ともに回廊を目指した。


高台に位置するロイセン城は、矢を射るためのくりぬき窓のある回廊まで出れば、国を一望できる。


レイモンド司祭の言うように、城へと続く跳ね橋の前では、多くの民衆が口々に声を上げていた。








「元老院反対~!! 元老院制のままでは、この国は救えない!」


「カイル殿下に軍事権を! カイル殿下なら、きっとこの国を救ってくださる!」


カイルの周りで、「いいぞ、やれやれ~!」と若い騎士達が盛り上がっている。


民衆の叫びは夕焼けに染まる空高く響き、カイルのもとにまで届いた。


吹く風が、アメリが金糸雀色と呼んだカイルの髪を揺らす。






眼下に広がる王国を眺めながら、カイルは思った。


この国は、こんなにも色彩に溢れていただろうかと。


橙色に青色に白磁色。王都リエーヌには色とりどりの屋根が並び、中心に位置するシルビエ大聖堂の緑色の三角屋根も見える。


煉瓦道の朱色に、木々の深緑、湖の水色。


城の前に集う民衆たちは、夕日に照らされて茜色に染まっていた。






いつか聞いたアメリの声が、優しくカイルの耳によみがえった。


――この世は色と、あたたかい言葉に溢れているのです。





カイルを求める民衆と騎士達の声は一丸となり、止むことを知らない。


カイルの胸の奥から、熱い何かがこみ上げる。


災いの申し子として生まれ、忌み嫌われながら生きて来たカイルの世界は、その日無限に広がった。


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