獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
獅子の紋章の縫い付けられた朱色の軍服に身を包んだカイルは、背筋を伸ばしてアメリにひたむきな視線を向けていた。胸に並んだ無数の徽章が、勇ましい。


ステンドグラスの光を受けて輝く金糸雀色の髪の美しさに、アメリは目を瞠った。


カイルはアメリのしなやかな指先を手に取ると、まるで宝物を扱うように優しく神の御前に誘った。


最高司祭の前で互いに誓いの言葉を述べると、熱いキスを交わす。


この国の英雄とその美しき妻の永遠の幸せを、その日その場にいる誰もが心から願った。







挙式のあとは、馬車に乗って凱旋パレードだ。


四人の騎士に前後を守られながら、カイルに手を引かれたアメリは大聖堂から馬車までの道を歩む。護衛の騎士達の中には、カールとブランの姿もあった。


至るところで歓声が飛び交い、街はお祭り騒ぎだ。


と、馬車に乗る直前に、アメリは人込みの中に見知った顔を見つける。


「ヴァン……!」


「アメリ様、遅くなって申し訳ございません」


ヴァンは、上質な刺繍の施された臙脂色のジェストコールを身に纏っていた。持ち前の甘いマスクも手伝って、まるでどこぞの貴族のようだ。


「何分、住んでいる場所が果てしなく遠いもので。それにしても、なんとお美しい」


「リルべに左遷されたんでしょ? 大丈夫なの?」


アメリが目覚めた時、ヴァンは既に騎士団を辞めていた。カイルに行方を聞いたら『リルべに左遷した』と素っ気なく答えたので、気がかりだったのだ。


「田舎も悪くないですよ。俺がいればどこにでも女はやって来る」


にっこりと、ヴァンは微笑んだ。


「違いますよ、ヴァンさんの魅力だけじゃない。辺境伯の身分に魅かれてるんでしょ」


アメリを護衛していたブランが、白けたような口調で言う。


「辺境伯ですって!?」


アメリは、目を丸くしてヴァンを見たあと、カイルに視線を移した。


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