獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
王の執務室を出たカイルは、長い廊下を回廊に向けて黙々と歩んでいた。


カイルの鬼気迫る形相を目にした召使いたちが、恐れ慄き道を開けて行く。




――災いの申し子。


それが、生まれついてのカイルの異名だった。


何百年と続くロイセン王国を統治するアルバーン家に、古くから伝わる予言に由来している。


黒髪しか生まれないアルバーン家に金色の髪の王太子が生まれた時ロイセン王国は滅びるだろう、という言い伝えだ。


そしてカイルは、代々決して生まれることのなかった金色の髪を持つ初めての王太子だった。





カイルが生まれた日、王をはじめこの国の幹部たちは皆絶望に苦しみもがいた。


そして翌日母は自ら命を絶ち、彼女を溺愛していた王はカイルに激しい憎しみを抱くようになった。


カイルは、この国に不幸をもたらす生まれついての悪魔なのだ。


幼い頃から、誰にも愛されず、憎しみと蔑みの眼差しの中を一人孤独に生きてきた。





何を思い上がっていたのだろう、と馬鹿馬鹿しくなる。


災いの申し子はどうあがこうと、この国に不幸しかもたらさない。


誰も、呪われた自分に関わらせてはいけない。


相手のことを想えば、想うほどに。


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