獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
そのガラス工房の老人は、名前をミハエルと言った。翌日から、アメリは足げくガラス工房に通い、ミハエル老人の手伝いをするようになった。


「カイル殿下の情報探りは、もう終わりなのですか?」


ヴァンも欠かさず護衛としてアメリについては来てくれるものの、暇ならしく、いつも店先でつまならさそうにリンゴをかじったり通り行く婦人たちに挨拶したりしている。


鋳型に流し込んだガラスを、アメリはローラーで平らにしていた。額には汗が浮かび、普段着用のモスグリーンのドレスも煤で汚れている。今のアメリを見て、伯爵家の令嬢、もしくはこの国の王太子の元婚約者だと気づく人はいないだろう。


「終わりじゃないわ。真実が見えるまで、少し休憩してるだけ」






本当は、真実を待っているだけではない。少しでも、カイルを近くに感じていたかった。


彼のいるロイセン城を毎日眺めたかったし、いずれは彼が治める王都の大聖堂を、どこの王都の大聖堂よりも美しく改修したかった。


カイルのことを思い浮かべながらガラス作りに励むアメリに、ヴァンが思慮深い眼差しを注ぐ。


「なるほど。悔しいが、アメリ様はあの悪獅子に惚れてるわけですね」


「……え?」


ヴァンの言葉に、アメリはローラーを転がす手を止めて、顔を上げた。






(私が、カイル様に惚れてる……?)


心の中で反芻すればするほど、肯定するかのように顔に熱が集まる。


今までに異性に好意を寄せたことがないので、初心なアメリは、ヴァンに言われるまで自覚したことがなかった。


いつからだろう、と物思いにふける。


ああ、そうだ。きっと、夜の中庭で抱きしめられた時からだわ。


彼の肌の温もりと唇の感触に、身が焦がれるような想いがした。彼のことが知りたくて、彼の心に寄り添いたくて、胸が苦しかった。


そんなアメリを、薄く微笑みながらもどこか寂しげな眼差しでヴァンが見つめている。
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