獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
ガラス工房を、こんな店呼ばわり? アメリはむっとしたが、怒りをどうにか呑み込んだ。


ドーソン男爵に盾ついたら、借金をしている様子のミハエル老人が不利益をこうむるだけだ。


「ありがたいお言葉ですが、男爵様。私はこのお仕事が気に入っておりますので、辞めるつもりはございません」


高慢そうな男爵の機嫌を損ねないよう、気持ちとは裏腹に微笑む努力をした。誘いを無下に断られても、自分に向けられたアメリの笑みに満足したのか、男爵は鼻の下を伸ばす。


「そうか、それは残念だ。だが、気が向いたらいつでも来るがいい。歓迎してやるぞ」


「ありがとうございます」


最後に男爵は、戸口にいるヴァンを警戒するように見やりながら出て行った。すごんだ目をしたヴァンが、無言の圧力を送っていたからだろう。








「いけすかない男だ。あの男爵に、金を借りているのですか?」


ドーソン男爵の姿が見えなくなってから、ヴァンが忌々しげにミハエル老人に問いかけた。ミハエル老人は丸椅子に座り込むと「そうだ」と力なく答える。


「シルビエ大聖堂のステンドグラスの改修費を、全額借りている。改修はわしが勝手にやっていることだからな。どうしても金が必要だった」


「そんな……。国や町からは、お金は出ないのですか?」


「壊されるかもしれないものを直す老人の気が知れないと、馬鹿者扱いだよ。ただでさえ、戦争に備えて金が要る時世だ。老人の余興に付き合ってくれるような、寛容な国ではない」


「まあ、そりゃそうだよな。じいさんの気持ちも、分からないことはないが……」


気の毒げに眉を寄せながらも、ヴァンが納得の声を出す。


「では、先ほどのお金はどこから……?」


アメリは不思議だった。ミハエル老人はシルビエ大聖堂のステンドグラス作りに専念しているため、店は機能していない。当然、収入はゼロの状態だ。
< 86 / 197 >

この作品をシェア

pagetop